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シリーズ和装の人たち 武術研究者「甲野善紀」9

インタビューを通じて和装の着こなし方、素材として絹の素晴らしさ、日本の伝統についてお伝えして行きます。
前回に続き、武術研究者・甲野善紀さんのお話をご紹介します。

第9回目は、「 着物のお手入れ 」についてお話しを伺いました。

ふだん、着物のお手入れは、どのようにされているのですか。

私が近代化する以前の日本の武術の研究を仕事として始めたのは29歳のときですから、それ以来、着物を着続けているということになります。

着物は自分で洗ったり、知人に頼んだりしています。ほとんど浸けておくだけで、あまり揉んだりしなくてもいい特別な洗剤があるので、それを使います。綿はもちろん絹にも使えます。

でも、基本的に、着物を洗うことはあまりしません。昔の人は、まず洗わなかったようですね。もちろん夏などは、汗をかきますので、夏の単衣は浴衣感覚で洗ったりしますけどね。ちなみに、洋服はまったく持っていません。

私が初めて着物で電車に乗ったとき、タイムスリップしたような感覚になりました。自分が昔の人間になったように感じたんです。そのため、周囲の洋服を着た日本人が、とても滑稽に見えました。これは今でも鮮明に覚えています。この感覚は昔、日本に洋服が入ってきて、神戸や横浜で、その洋服を着た人が増え始めたころ、地方からこの地に来た人が感じた違和感に近いような気がしました。そういう不思議な体験をしたので、私は今でも着物を着続けているのだと思います。

今では、着物を着た方のほうが圧倒的に少なくなってしまい、ちょっと寂しいですね。ありがとうございました。

次回は、「 着物にまつわるエピソード」について、伺います。
(更新予定 12 / 10)

【 甲野善紀 (こうのよしのり)】

●プロフィール 1949年東京生まれ。武術研究者。 1978年松聲館道場を設立。日本古来の武術を、伝書と実技両面から研究し、その成果がスポーツ、楽器演奏、介護、工学等から注目を集め、国内外で指導依頼されている。2007 年から 3年間、神戸女学院大学で客員教授も務める。著書に『表の体育 裏の体育』 (PHP 文庫 )、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫 )、『できない理由はその頑張りと努力にあった』 (聞き手・平尾 文 PHP研究所 )、『ヒモトレ革命』(小関勲共著、日貿出版社 )、新刊『古の武術に学ぶ無意識の力』(前野隆司共著、ワニ・プラス)等多数。「NHK人間講座」、「爆問学問」や「世界一受けたい授業」等TV出演多数。

ホームページ: https://www.shouseikan.com/