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シリーズ和装の人たち 武術研究者「甲野善紀」6

インタビューを通じて和装の着こなし方、素材として絹の素晴らしさ、日本の伝統についてお伝えして行きます。
前回に続き、武術研究者・甲野善紀さんのお話をご紹介します。

第6回目は、「 着物を着たときの動き 」についてお話しを伺いました。

前回のお話で、打ち込みをかわす動きについて伺いましたが、さらに詳しくお聞かせください。

今のスポーツなどの動きは、床を蹴って動こうとします。そうすると、体がねじれやすくなります。着物だと、着崩れてしまう動きですね。そうではない動き、つまり“体幹を働かせる動き”ができなくてはなりません。“足を使って体を動かす”のではなく、“体が足を連れて動く”という表現のほうが近いと思います。前回お話ししました市川海老蔵さんは、歌舞伎や日本舞踊で鍛え上げてきたからこそ、その動きができたのですね。

また、こんなことがありました。オリンピックで金メダルを取った有名な柔道選手が、はるかに小柄なレスリングの選手と、柔道着を着ないで対戦したことがありました。ところがそのときは、金メダリストのほうが簡単に負けてしまったんです。もちろん、柔道着を着て再戦したら、圧倒的に強かったです。でも、武道として考えた場合、何も着ていないときに簡単に負けてしまうというのは問題ですよね(笑)。ひと言で言えば、“着物が着崩れない動き”、すなわち“体幹を働かせる”という動きができていなかったのだと思います。

日本古来の動きというのは魅力的ですね。ありがとうございました。

次回は、「 着物の効用 」について、さらに伺います。
(更新予定 11 / 19)

【 甲野善紀 (こうのよしのり)】

●プロフィール 1949年東京生まれ。武術研究者。 1978年松聲館道場を設立。日本古来の武術を、伝書と実技両面から研究し、その成果がスポーツ、楽器演奏、介護、工学等から注目を集め、国内外で指導依頼されている。2007 年から 3年間、神戸女学院大学で客員教授も務める。著書に『表の体育 裏の体育』 (PHP 文庫 )、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫 )、『できない理由はその頑張りと努力にあった』 (聞き手・平尾 文 PHP研究所 )、『ヒモトレ革命』(小関勲共著、日貿出版社 )、新刊『古の武術に学ぶ無意識の力』(前野隆司共著、ワニ・プラス)等多数。「NHK人間講座」、「爆問学問」や「世界一受けたい授業」等TV出演多数。

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