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シリーズ和装の人たち 武術研究者「甲野善紀」5

インタビューを通じて和装の着こなし方、素材として絹の素晴らしさ、日本の伝統についてお伝えして行きます。
前回に続き、武術研究者・甲野善紀さんのお話をご紹介します。

第5回目は、「 着物を着たときの動き 」についてお話しを伺いました。

前回のお話で、“着物が着崩れない動き”について伺いましたが、少し具体的に教えていただけますか。

それは、例えば後ろを振り向くときでも、“見返り美人”のように上半身だけねじって振り向くのではなく、体全部を動かして後ろを向く、という動きです。その動きが、古武術の基本動作となるのです。能や日本舞踊の動きにも共通するところがありますね。

例えば、相手が竹刀で打ち込んできた場合、これをパッとかわすのは、一流といわれているスポーツ選手でさえ無理なんですよ。それほど竹刀を打ち込む速さが速くなくても、誰もが足で床を蹴ってかわそうとするものですから、頭はかわせても、肩とか腰とか足とかを打たれてしまうんですね。ましてや、ビュンと音がするほどの打ち込みをかわせた人は皆無でした。

ただ、その中で、5分くらい動き方を教えて、ある程度できるようになった人がいます。それは歌舞伎の市川海老蔵さんです。あの方は足で床を蹴らない動きを、日本舞踊などで子どものころから練り上げて、すでに身についていたからだと思います。

しかも、役者として竹刀の打ち込みに動じず、合図として捉えたのでしょうね。たいしたものだと思いました。

打ち込みをかわせる動き、私も身につけてみたいものです。ありがとうございました。

次回は、「 着物と体の使い方 」について、さらに詳しく伺います。
(更新予定 11 / 12)

【 甲野善紀 (こうのよしのり)】

●プロフィール 1949年東京生まれ。武術研究者。 1978年松聲館道場を設立。日本古来の武術を、伝書と実技両面から研究し、その成果がスポーツ、楽器演奏、介護、工学等から注目を集め、国内外で指導依頼されている。2007 年から 3年間、神戸女学院大学で客員教授も務める。著書に『表の体育 裏の体育』 (PHP 文庫 )、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫 )、『できない理由はその頑張りと努力にあった』 (聞き手・平尾 文 PHP研究所 )、『ヒモトレ革命』(小関勲共著、日貿出版社 )、新刊『古の武術に学ぶ無意識の力』(前野隆司共著、ワニ・プラス)等多数。「NHK人間講座」、「爆問学問」や「世界一受けたい授業」等TV出演多数。

ホームページ: https://www.shouseikan.com/